220 財産管理型の寄与分の有無及び高収益不動産の取得者が問題になった事案
事案の概要
・Xが当事務所依頼者、Yが遺産分割の相手方、Aが被相続人
・●は、相続人、被相続人ではなく、既に死亡している人、
・○は、相続人、被相続人ではなく、生存している人
・横線は婚姻関係を示し、縦線は親子関係を示す(実線が実親子、点線が養親子)
- ①
- Aが死亡し、相続人は長男Y、次男X1、X1の長男(Aの養子になっている)X2、三男Zの4名
- ②
- Aは愛知県某市の地主で、市内に多数の不動産を所有(合計約10億円)。預金、株式の金融資産も約1億円所有。
- ③
- 長男Yには、軽度の知的障害があったため、次男X1がAの後継者として、相続税対策や不動産の管理等、Aの資産管理を行っていた。
- ④
- Aが死亡後、X1が中心となって、遺産分割協議を進めた。従前から、YはX1の一家で面倒を見ていたが、今後も、YはX1一家で面倒を見ていくことや、X1がAの跡取りとして墓の管理等をしていくことを前提に、Yが遺産総額の約7%を取得、Zが遺産総額の約18%を取得、X1及びX2がその残り(約75%)を取得する内容の遺産分割協議が成立した。
- ⑤
- その後、X1が急死してしまった。
- ⑥
- X1が急死してからしばらくして、Zが「Yが遺産分割協議の内容を了解していなかった。X1がYの実印を勝手に使って遺産分割協議書を作成した。この遺産分割協議は無効である」という遺産分割協議無効確認の訴え、及び「AとX2の養子縁組届が作成、提出された当時、すでにAは正常な判断能力を失っており、X2を養子とする意思はなかった。したがって、AとX2との養子縁組は無効である」という養子縁組届無効確認の訴えを提起してきた。
- ⑦
- 裁判中にYも急死してしまった。
- ⑧
- 結局、遺産分割協議無効確認訴訟、養子縁組無効確認訴訟、いずれもZの主張が認められ、X2はAの相続人ではなくなり、遺産分割協議もやり直すことになってしまった。
- ⑨
- やり直しの遺産分割を行うため、Zによって遺産分割調停が申し立てられた。調停では解決せず、審判に移行。
- ⑩
- 調停では、X2らは、代理人をつけていなかったが、審判移行後、代理人を選任。
- ⑪
- 審判において、X2らが特に希望していたことは、
- ア
- Aの生前、X1がAの後継者として相続税対策やA所有のマンションの管理等に従事したことをX1の寄与分として認めてほしい
- イ
- Aの死後、後に無効になった遺産分割協議によってX1が取得した甲土地は、X1が取得時は、全く収益を生まない農地だったが、X1が取得後、転用され、飲食店に賃貸されたことによってAの遺産の中でもっとも高収益の物件になっていた。そのため、やり直しの遺産分割において、X2らもZも甲土地の取得を希望した。しかし、甲土地は、X1が病に侵されながらも、苦労して収益物件に変えた土地であり、X2らにとっても思い入れがあった土地であったことから、絶対にZには渡したくないということだった。
しかも、審判において、X2らの代理人は、X2らが反対したにもかかわらず、Zの求めに応じる形で、X2らの内部資料を提出してしまった。
その結果、X2らとしては代理人を信頼できなくなり、当事務所に代理人を変更した。
当事務所の事件処理
(1)関係者への事情聴取、陳述書の作成
裁判所に寄与分を認定してもらうために、A、X1の生前、X1が取引をしていた不動産屋業者3件から、X1が、Aの財産の維持、増加にどれだけ貢献をしたのかを聴き取り、陳述書にして、証拠として提出しました。X2らの言い分も、同様に陳述書にして提出しました。
また、AやX1の日記や写真から、証拠になるものをピックアップして、証拠として裁判所に提出しました。
その結果、審判官(裁判官)から、「仮に審判を下す場合、X1の寄与分として、○○円を認める予定である。なので、X1の寄与分が○○円であることを前提にして、今後進行していきたいがどうか?」という打診があり、X2らもZも、これを受け入れました(裁判所にX1の寄与分を認定してもらったのと同様の結果になりました)。
(2)競り方式で甲土地の取得者を決めることになり、X2らが甲土地を取得できました
不動産業者やX2らの陳述書によって、いかにX1が甲土地を収益物件に変えることに貢献したかを主張立証することによって、審判官に「甲土地はX1の相続人であるX2らが取得しなさい」とも言ってもらいたかったのですが、残念ながら、そこまでには至りませんでした。
ただ、審判官からは、「『競り方式』で甲土地の取得者を決めたらどうか?」という提案がありました。ここで言う「競り方式」とは、X2ら、Zが甲土地に値段をつけて、高い値段をつけた方に、その値段を甲土地の評価額として取得させるという方法です。高い値段で甲土地を取得することになれば、その分、他の遺産の取り分は減ることになります。
審判官からの提案を、X2ら、Y双方が受け入れたため、「競り」が実施されました。その結果、X2が甲土地を取得することができました。
結果として、X2らの2つの希望(X1の寄与分を認めてもらうこと、甲土地を取得すること)は、両方とも叶えることができました。
以上